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バックオフィス効率化

押印電子化(後編)

前回の続きとなりますが、押印電子化を推進していく中での実務的な検討事項について解説をしていきます。

(2)-1. 契約書

日本企業では、長年、紙の契約書に会社実印や役職印などを押印するという慣行が定着していました。この点に関し、6月19日に内閣府、法務省、経済産業省の連名で、テレワークの推進の障害となっていると指摘されている、民間における押印慣行について、その見直しに向けた自律的な取組が進むよう『押印についてのQ&A』(「法務省Q&A」)が公表されました。

公表された文書はでは6つの問いに対する回答の形式で、押印に関する法的効力や裁判での扱われ方について説明しています。

詳細な解釈は、法律の専門家の解説サイトを参照頂くとして、ここでは簡潔に結論だけ記載しますと、

・契約書などの文書に押印しなければならないという法律上の制約はなく、押印がなくとも契約自体は有効に成立する。

・契約書の押印は、契約後にトラブルが発生した際に、契約の成 立を推定するための手段として重要視されていたが、例えば、継続的な取引関係がある場合は、取引先とのメールのメールアドレス等の保存、新規の取引を行う場合には、運転免許証などの本人確認情報の記録・保存等、その他に電子署名や電子認証サービスの活用により、文書成立の真正を証明する手段となり得る。

と、されています。

この点、電子署名や電子認証サービスを活用するということも強調されており、今後このようなサービスを利用する企業は増加していくことが予想されています。

また、このサービスを利用する上で、今までもう1つ論点がありました。それは、電子署名の方法に関して、「当事者型電子契約」と「立会人型電子契約」の2つがあり、その法的な証明力に関するものです。

・「当事者型電子契約」とは、契約の当事者が印鑑証明にあたる電子証明書を取得し本人であることを証明する形式であり、電子署名法によってこれまで有効とされていた方法です。

・「立会人型電子契約」とは、PDFなどの電子契約書をインター ネット上にアップし、双方が確認して合意することで立ち会った電子契約サービス提供事業者が契約書の締結を確認して電子署名する形式です。

「当事者型電子契約」は、第三者機関の電子認証局の厳格な審査の下、発行されるので法的効力が高いところが特徴です。ただ、当事者双方が認証機関でそれぞれの電子署名について電子認証(印鑑登録の電子署名版)を受けることが前提となっているため、事務的な負担が懸念されていました。

一方で、「立会人型電子契約」は、メール認証などのシステムログを使用した認証と電子契約サービスへの登録のみで利用できるため、導入が容易で、処理の手間も少ないため、実務的にはこちらを選択するケースが多く見られました。ただ、「立会人型電子契約」は、今まで電子署名法上の位置付けが不明確でした。

この点について、7月17日に、総務省、法務省、経済産業省の3省連名にて、「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」が公表されました。

このQ&Aにて、立会人型サービス(電子サイン)もタイムスタンプ等が付されたものであれば、電子署名法の電子署名に該当しうる旨の見解が明確にされました。これにより、立会人型サービスでは契約の成立の真正を推定されないのではという懸念が解消されました。

このため、クラウドサイン・ドキュサインなどを始めとするクラウド型電子契約サービスが安心して利用できる範囲が非常に広がったと評価できます。

(2)-2. 取引証憑

企業間でやり取りが行われる発注書・見積書・請求書といった取引証憑についても、従来は会社の角印などが使用されるケースが多かったと思われます。

こちらについても印鑑の押印行為自体には法的な効力が無いため、押印は必須ではなく、電子化することや無料の電子印等でも対応は可能です。

ただし、取引先とのルールにより押印行為を行っているかと思われますので、電子化する際には、どの程度の証明力が必要なのか(例えば、契約書と同等の電子署名のようなものか、または、印影を電子化したような電子印鑑、もしくは、タイムスタンプでの日付の確定や担当者名や日付を反映した電子印鑑など)を確認したうえで推進する必要があります。

(2)-3. 銀行

銀行口座開設時に法人銀行印を登録し、手形や小切手を発行する際や融資を受ける際に使用されてきました。

銀行印に関しては個々の取引先金融機関の方針にもよりますが、新型コロナウィルスの感染拡大をきっかけに電子契約システムを導入する金融機関も増加しています。

6月10日のNHK報道では、『みずほ銀行「はんこ文化」見直し 企業向け融資を電子契約へ』との見出しで、みずほ銀行が融資など企業との取引は契約書の作成から承認まで、オンラインでできるようにしたことについて報道が行われていました。

また、6月25日付で金融庁が『「金融業界における書面・押印・対面手続の見直しに向けた検討会」の設置について』をリリースしており、『金融業界の各種手続の電子化状況の把握について』と『電子化に向けた課題への対応方針について』検討を進めるとしています。

そのため、銀行取引についても今後電子化が進んでいく方向にあるため、その動向に合わせて、自社の業務についても見直しが必要になります。

(2)-4. 実印が必要

代表者印(法人実印)は会社設立時に法務局に法人印鑑登録されており、重要な契約書や官公庁への提出書類など、法人を代表して押印する際に使用されているかと思います。

そのため登記を伴う代取交代などの一部の登記変更、不動産売買契約書、根抵当権・抵当権・質権などの設定契約書、連帯保証をする際の契約書等で使用されています。

契約に関しては、原則的には今までと同様、印鑑だけで契約が成立するわけではないため、相手方との交渉次第ではありますが、電子化することは可能です。

また、不動産登記などについてもオンラインで実施することができるようになっていることから、登記時に司法書士へ依頼する際には代理人申請となるため代表者印が必要になりますが、電子署名を利用して、完全にオンラインで登記手続を完結させることも可能になります。

ただし、まだオンラインで進めるとしても、実務的な煩雑さもあるため、現時点では必要に応じ、弁護士もしくは司法書士への相談を頂くのが良いかと思います。

(3). その他書面が求められるケース

今までは、ペーパーレス化を推進するに際して、押印が必須となる業務に焦点を当てて解説を行って参りましたが、最後に法令によって現時点では書面が必要となる主な取引を列挙します。

  • 定期借地契約、定期建物賃貸借契約書面(借地借家法22条、38条、39条)
    • 不動産取引における重要事項説明書面等(宅地建物取引業法34条の2、35条、37条)
    • マンション管理業務委託契約書面(マンション管理法73条)
    • 特定継続役務提供等における契約前後の契約等書面(特定商取引法第4条、第42条)ほか

上記に関しては、業種によってはそれほど頻繁に起こる契約でもないため、影響がそれほどないケースも多いかと思いますが、ハンコ電子化を進めるに際しては留意が必要です。

  • まとめ

今回、記事を書き進めるにあたって感じたのは、押印文化が社内の日常業務全般に深く関わっていることです。

一方で、一度プラットフォームを作り込むことが出来れば、非常に多くの押印及び押印手配業務が効率化され、契約も一元管理される、千載一遇のチャンスとも言えます。

今後このようなペーパーレス化推進の社会的要請が高まっていく中で、従業員の健康を確保していきながら、業務を効率化し、競争力を高めていく企業が増えていくことは間違いありません。

貴社でもこのタイミングで是非ペーパーレス化を検討頂く良いきっかけになれば幸いです。

最後まで記事を読んで頂き、ありがとうございました。