IPOに向けた社内認識の統一

IPOをスムーズに成功させたい企業の経営者もしくは上場準備担当者の方へ 「上場準備を支援した会計士」 と 「実際に上場準備を経験した元CFO」 がそれぞれの視点でIPOを進めていく上での検討・課題点の解説を行っていきます。 ・「会計士」は、上場準備における企業の要対応項目や考慮すべき点について形式面を中心とした解説をします ・「元CFO」は、IPOの実体験を踏まえた失敗談やベストプラクティスを含む社内の上場準備対応実務を中心とした解説をします


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今回は「IPOについて社内認識(コアメンバー)を統一する必要性」について解説します

 

  • なぜIPOを目指すのか

IPOは会社の持続的な成長の中では、重要なイベントではありますが、通過点にすぎません。そのため、IPOを通じて何を成し遂げたいのか、経営者が会社の将来の成長戦略として、じっくりと考える必要があります。

東証の上場会社トップインタビューが掲載されている「創」において、各社がIPOを目指した目的につい掲載されています。以下はその抜粋・要約になりますので、参考になればと思います。

 

・ 社会貢献をしていくためには、外部からの目にさらされながら透明性のある経営が必要

・ 会社が成長の軌道に乗ったとしても初志貫徹できるよう、第三者の目を入れてプレッシャーをかける

・ 上場したほうが当然、会社が大きくなるスピードが速くなる

・ 財務基盤の強化。直接金融で資金調達の選択肢が広がり、投資もしやすくなる

・ 認知度、信用度の向上。お客様側の受け止めも変わるので商談等がスムーズに進む

・ 採用に関して、エントリー数と質が多少なりとも変わってくる

・ 業界全体の社会的地位向上

(東証:上場会社トップインタビュー「創」 https://www.jpx.co.jp/listing/ir-clips/interview/index.html

 

  • コアメンバーの選定

上場準備を実際に進めていくうえで、大事な要素として、実働メンバー(コアメンバー)の選定があります。コアメンバーの選定には、大きく2つの観点が含まれています。

1つはいわゆる「公開準備室」です。「公開準備室」は、上場準備を進めていく上で、外部の関係者(証券会社や監査法人、証券取引所等)や内部の関係者(経営陣・主要業務の管理職)との連結環としての役割を担います。また、上場準備に関係するプロジェクトの事務局としての役割も担います。会社の規模により、その役割も変わってきますが、専任で1-2名が任命されるケースが多いようです。

上場準備の経験者が社内にいれば、そのメンバーを任命することもありますが、難しければ社外から採用するか、もしくは、社内の経営企画的な立場のメンバーを任命し、社外のコンサルに補助してもらうケースもあります。上場準備では膨大な量の規程作成や管理体制の整備、種々の事務作業も発生します。そのため、ここである程度の人をはることで、加速度的に増える上場準備の対応業務をうまくさばくことができます。

コアメンバーのもう1つの観点が、主要事業及び管理部門の責任者(もしくはリーダー)の関与です。上場準備を進めていく上では、業務に広範に影響を及ぼすため、ほぼすべてのメンバーに影響が出ることが想定されます。そのため、あらかじめ主要な事業や管理部門の責任者(及びリーダー)クラスのメンバーを上場準備のプロジェクトの兼任メンバーとして任命するのが望ましいです。

 

  • コアメンバーの認識を統一する

前回の記事でも述べましたが、上場準備は早くても3年ほどかかります。創業して10年ほどの会社にとっては、経験したことのないプロジェクト年数になる可能性があります。また、先ほども述べましたが、ほぼすべての業務に影響が出ますし、ストックオプションを従業員にも付与することになれば、すべての従業員の将来にも影響を与えることとなります。そのため、先ずはコアメンバーと、上場準備を何のために行うのか、会社がどう変わるのか、自分たちの意識をどう変えないといけないのか、については、スケジュール感も含めて認識を合わせておくことが非常に重要です。

特に新興の企業にとって、上場準備がスムーズに進むケースはほとんどありません。業績の伸びの問題や、管理面の問題、業界や事業特有の規制の問題など、上場準備を進めていくうえで、クリアしないといけない課題が数多くあります。そのような数々の困難を乗り越え、時に、失敗しても挫けず前に進むためには、コアメンバーで共通の目標に向かう意識の高さ・組織力が重要なカギとなっていきます。

 

  • 元CFOの解説

ここからは、元CFOの立場からの解説をいたします。改めて今回のテーマは、「IPOについて社内認識(コアメンバー)を統一する必要性」についてです。

大前提として、IPOに向けた準備というのはあらゆる面で事業や組織に負担をかけるものです。IPOを目指す以上、この負担を避けることはできないと考えてください。

IPOを目指す会社というのは、基本的には一定の事業拡大の最中にあり、成功体験も積みあがりつつあり、組織のモチベーションも高いということがほとんどでしょう。そのような組織に対してこれまでのやり方を否定して新しい仕組みを導入するというのは、思った以上にストレスのかかるものです。現場では「手間や手続きが増えた」「時間がかかるようになった」「今までできたことができなくなった」などといった声が上がってくるようになることもどうしても生じます。しかし、IPOを目指す以上は適切な管理体制を整備するために新しい仕組みを次々に導入する必要が生じますから、これは乗り越えなければならないハードルだということになります。

これに対して、各部門の責任者が現場の中で同じように不満を口にしているようでは、IPOに向けた数年単位の準備期間を乗り越えることはできません。現場に一定の負担がかかったとしても、それを乗り越えられる組織でなければなりません。そのためには、各部門の責任者がIPOを目指す意義や必要性を理解し、現場の各メンバーに落とし込める状態となっていることが必要不可欠です。

IPO準備の中心となるのは、管理部門や上場準備室といった間接部門ということになるはずです。しかし、やはりそのプロジェクトは管理部門や上場準備室だけが取り組むのではなく、各部門の責任者が直接かかわっている状態というのが望ましいでしょう。そのためには、各部門の責任者がIPOプロジェクトのメンバーを兼ね、証券会社や監査法人などとのIPOに向けたミーティングに参加し、そこで整理されたIPO準備の進め方や考え方をそれぞれの部門に落とし込む役割を担えるようにすべきです。各部門の責任者は、IPOに関する基本的な知識についても、管理部門や上場準備室のメンバーと同様に身につける努力をすべきでしょう。

IPOに向けた各種のミーティングに参加して準備の全体像をそれぞれが把握した状態にすることができれば、自分たちが何のために上場を目指すのか、その後どのような事業展開を目指すのかといったことについて、どんどんクリアになっていくはずです。それらがクリアになっていないと話が進まないという場面がたくさん生じるはずだからです。

また逆に管理部門や上場準備室のメンバーにとっては、各部門の責任者がIPOに向けて主体的に取り組みやすくなるよう配慮すべき場面も多いでしょう。各部門にとっては、ひょっとすると「IPOという何もわからないプロジェクトが突然立ち上がった」という感覚になっているかもしれません。そうならないようなるべく早い段階から各部門を巻き込んでおきたいところではありますが、実際にプロジェクトが立ち上がったあとであれば各部門に対しIPOに向けた学習の機会を提供したり、準備の状況を都度共有する場を設けたり、IPO準備の一部を思い切って任せたりすることも必要になるでしょう。管理部門などが各部門と足並みを揃えようとせずに突っ走ってしまうとこれもIPOがうまくいかない原因となってしまいますから、そうならないよう管理部門の側がうまく各部門を巻き込めるよう努力することも大切です。管理部門とその他の部門が互いにそういった努力をしあうことができれば、IPO準備を適切に前進させることができるでしょう。

 

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